成長戦略型M&A “優良企業が買収より売却を選んだ理由”

(右) 石野秀行氏
(左) 当社M&Aコンサルタント中森
2018.2月 当社M&Aセミナーにて

三幸食品株式会社+サンコレクトグループ /2017年4月ご成約

業務用のだしなどの製造を手がける食品製造業の三幸食品株式会社は、M&Aによって食品卸業をはじめ多岐に渡り事業をされているサンコレクトグループにM&Aにより子会社化されました。

30代後半の若き経営者がM&Aを選択した経緯や現在の心境、M&Aのメリットなどを、三幸食品株式会社の前代表取締役社長の石野秀行氏にお話を伺いました。当社主催のM&Aセミナーの講師として登壇いただき、参加された経営者の方々へお話いただきました。

譲渡企業

三幸食品株式会社 (所在地: 石川県)

前代表取締役の石野様は、1978年生まれの現在39歳。三幸食品㈱様は、主に業務用のだし、だしパックの製造販売および業務用の食品製造販売を行っており、年商約6.2億円、従業員数が約50名の業歴61年の企業でした。石野様は4代目で昨年まで社長として手腕をふるっていましたが、2017年4月にサンコレクトグループとM&Aを行い、自社をお譲りになられました。

三幸食品㈱の主力商品のだし・だしパック

譲受け企業

サンコレクトグループ (所在地: 富山県)

サンコレクトグループ様は、㈱セル コーヒーフーズを主体とした食品卸売販売事業を主体に飲食事業、外販事業、IT事業もされています。また、現在の創業社長が建築業でビジネスを始められた関係もあり、不動産業、建築業と多岐にわたる事業展開を行っており、年商は11億円の成長企業です。


従業員の雇用継続を考えた時、「他社を買収」するのか、「自社を売却」するのか。
悩んだ末の決断は。

M&Aを考えた背景は?

従業員の継続的な雇用を考えた時に、自社の持っている顧客の市場だけではどうしても先細り感がありました。特に若いスタッフに定年まで働いてもらおうと思った時に、現状では先行きは不透明でしたので、単純に会社を大きくしていかなければならないと思いました。その戦略としてM&Aを考え始めました。

M&Aを決断した理由は?

会社の繁栄と雇用の継続の為の手段としてM&A決断をしました。相手企業の市場やノウハウを活かし、相乗効果で自社も発展することできると考え、雇用継続の更なる強化を目論み、最初は買収・売却の双方の選択を検討していました。最終的には、私には娘だけしかおらず遅かれ早かれ後継者不在の問題がやってくることと、現在の社内体制を鑑みた際に、買収をするよりも売却により買い手企業に主体性を持っていただいたほうが、現メンバーの力が最大限発揮できて、会社の繁栄につながると思ったからです。

初回面談では?

まずは、M&Aを希望するに至った経緯をお話しました。こちらの希望や他のケースの実例、会社の売却価格をどう設定しているか、またどのような方法でマッチングを進めるかなどの説明を聞いたかと思います。

その後、面談を数回重ねました。

  1. 会社がいくらくらいで売却できるのか
  2. お相手先がいるのかどうか

また、これらの可能性について、話し合いをさせていただいたき納得できたので、仲介業務を依頼しました。

当初抱いていた相手先への希望は?

第一に、雇用の継続を保障してくれるような会社であること。そして、双方の持っている市場や商品のノウハウに相乗効果を感じさせてくれること。今までの自社の企業風土とは異なっても、従業員をグイグイ引っ張ってくれるリーダーシップを発揮してくれる幹部がいる会社を希望しました。

その条件を鑑みて、同業異業にかかわらず、50社ほどの候補企業をご提案いただきました。実際のところ、一緒になって良い結果がイメージできる会社とよくわからない会社もありました。仲介者様のリストアップなので、こちらが希望しても相手が関心の無い場合もあるので、よほど悪いイメージがない限り幅広くリストにある会社に聞き取りをしてもらおうと思っていました。

相手先を決断した理由は?

会社内の課題や問題これからの方向性などを含めた、こちらの希望をほぼ受け入れてくれたからです。具体的には、三幸食品の課題は「営業力」にありました、どんなに良い商品でもお客様に届かなければ意味がありません。

一方で、サンコレクトグループは商社という事もあり商品を売る力を持っていました。また商社がメーカー機能を持つことで、取引先への提案が広がることと、三幸食品のお客様も含め販路拡大にシナジーが生まれることが見込まれ、双方にとって一緒になることがメリットだと感じ決断しました。

買収監査(DD)はいかがでしたか?

買収監査はかなりハードでした。基本的には社員には一切知られない様に進めるので、質問されたことに関して分からないときは、さりげなく社員に聞いたりしていたので神経は使いました。

聞き取り調査の時は、顧問税理士先生にも同席してもらいました。会社の資料を極端な事を言えば根こそぎお知らせすることになるので、いかに資料を正確にそろえるかが大事であると感じました。日々の業務に関する資料の整理整頓がしっかりされているかがこの時にわかります。提出する資料は会社の全てですので、良い事も悪い事も正直にお話しすることが大事かと思います。

資料集めは担当の中森さんが手伝ってくれたので助かりました。中途半端な報告をすると譲渡後に誤解が生じるので誠意をもって対応させていただきました。

調印式を振り返ってみて

M&Aの仲介を依頼した時から色々な意味で、勢いで進めてきたところもありました。ずっと葛藤の連続でした。

  • 『このままだと会社はずるずるジリ貧になっていくことが目に見えている。しかしM&Aで会社の未来は明るくなる可能性がある』
  • 『でもそれを行うという事は代々受け継いできたものを終わらせることになる』
  • 『取引先や従業員・友人などはどう思うだろうか』
  • 『でも雇用の永続を図るにはこの方法が考えられるベストである。この結果が正しかったかどうかは5年後10年後しかわからないがこれは前向きな決断なんだ』

この繰り返しで数ヶ月間過ごしてきました。

調印式では、これまでのことが一気に思い出されて、押印寸前に人目もはばからず泣いてしまいましたが、セルさんとのご縁を信じるしかないと思いました。

調印式当日の三幸食品㈱前社長 石野秀行氏

譲渡後の取引先の反応はいかがでしたか?

当然なことで驚かれました。理解をしてくれるお客様もいれば、お叱りを受けるお客様もいました。

『時代の流れに合わせて会社の形も変えていかないといけない。社長の顔が変わるだけで取引の形などは一切変わらないので安心してください。』と真摯に説明して回りました。取引そのものはこれまでと変わらず継続となりましたので大きな混乱はありませんでした。

しかし、スタッフを含め『石野は会社を売った、逃げた、裏切った』と思った人もきっといたと思います。もともと古い閉鎖的な思考の市場・業界であり、M&Aというそのものが身売りや乗っ取りというマイナスなイメージを持たれている方もいらっしゃいました。これらを抜きにしても、会社の内情含め経緯や自分の想い全てを100%理解してもらえたとは思っていません。人それぞれ色々な想いはあると思うので、こればかりは仕方ないと割り切るしかないと考えています。

現在の会社の状況を教えてください。

親会社から新社長が1人で来てスタッフと一緒に仕事をしています。大挙して人がやってくるといった乗っ取りではなく、現在のスタッフの力を活かして会社をさらに発展させるといったスタンスです。うちの会社は社歴の長いスタッフが大半で、今までは新しいことに対してのアレルギーが蔓延していましたが、組織が変わったことで会社全体に緊張感が一気に広がったと感じています。これは悪い事では無いと思っています。元々会社全体に「このままではダメだ」という漠然とした不安が常にありました。それをうまく実現することができない社風が突然ある意味強引に変わることになりました。

新社長はこれまでのしがらみや先入観がありませんので、色々なアイディアや方針を次々に打ち出されているようです。それに対しての反対意見などもあるようですが、自分の時はしがらみや現状を知りすぎているために思い切った行動に移せないでいました。今は、新しい売り先や売り方を多少リスクであっても行っています。直前期の決算&財務状況が非常に良好であったタイミングでM&Aを行いました。そのため、少しくらいのつまずきも十分耐えられる時間と財務的余裕はあると思います。そんなの中で、新体制のもと新しい挑戦を行ってくれるのはありがたくもあり、自分にはできなかったという悔しい思いもあります。

いずれにせよ新社長のもと少しずつ意識改革が進み、強い組織になってくれることを祈るばかりです。

譲受後の新しい試み。石川県七尾市の能登食祭市場に弊社直営店舗「ダシの三幸」をオープン

M&Aを検討されている方へ

少なくとも自分は残されたスタッフの今後の保障を何よりも考えてほしいという思いでM&Aを実行しました。

譲受側は「もっと自分の会社を大きくしたい」譲渡側は「とにかく雇用の継続を」が本音だと思います。大枠の思惑では一致しても、細かい部分で想いの違いは出てくると思います。さらにその先の「譲渡側の社員」との思惑の違いは大きく出てくると思います。

譲受企業・譲渡企業社長・譲渡企業社員はそれぞれ違う立場です。まずは譲受側と譲渡側社長が本音で想いをぶつけあうことが必要かと思います。

お互いがどのような会社であるかを理解し合うまで、何回も面談などを行ってコミュニケーションをとることが大事かと思います。この部分では自分はもう少し時間をかけて話し合えることが出来ていればと反省しています。

そして、M&Aを実行する前には、譲渡側社長とそこの会社従業員もこれからの会社の方向性や従業員の想いなどを出来る限り本音で話すことが出来れば良いかなと思います。


【仲介担当者より】

M&A コンサルタント 中森恭平

今回のM&Aは、両社の思いを実現できる良いマッチングであったと感じています。実行後もシナジーがうまく発揮され順調に業績を伸ばされています。

もし会社を買収して成長されたいとお考えの方には、譲渡側のオーナーは、このような思いで決断、実行されているという事を御理解頂いたうえで、「買手企業は選ぶ方ではなく、選ばれる立場」であるとお考えいただけると仲介者としてありがたく思います。日頃からM&Aをする目的、または自社の戦略を明確にしておくことが重要です。たとえば、今後の発展を考え譲渡をご決断した社長に、自社と一緒になった時にどのような発展が考えられるかを明確にアピールできるようになどもそうです。

私たちがヒアリングする中で、たまに譲受企業の社長から「どこでもいいから良い企業があったら持ってきて」という言葉が投げかけられます。仲介会社としても、そういった企業様への提案がどうしても後回しになってしまいます。明確なビジョンを持ってM&Aをご検討いただけたらと思います。

友好的M&Aで企業の存続と発展を

ベイシカルマネジメントがご支援させていただき、M&Aを実行された企業様の事例です。
M&Aを決意された理由や実行時の状況から、M&A後どのような成果を得られたのかをご紹介します。

CASE1: [株式譲渡]M&Aで継げず、廃業できずの高齢経営者を救った!

経営者の希望
  • リタイアを希望
  • H社の創業者ハセガワ氏は年齢的な限界を感じ、もうそろそろリタイアしたい。
問題・課題
  • 後継者がいない
  • 後継者となる子どもがおらず、社員にも適任者がいない。
  • 従業員
  • 従業員のことを考えると会社をたたむことができない。
  • 負債
  • 工業用機器などを購入した際の負債が残っている。
  • 安定収入
  • 会社を清算しても、リタイア後の生活が安定するとは言いがたい状況。
株式を100%譲渡
条件: 従業員と債務も一緒に…
実施策

従業員1.5倍、年商2.5倍規模の射出成型部品製造業J社とM&A。

  • 従業員も負債も一緒に
  • 「従業員の継続雇用」「債務の引き継ぎ」などを譲渡条件にJ社に株式を100%譲渡。
結果
  • 1+1が2.5に
  • H社を得て、J社は1+1が2.5に化けるほどの相乗効果を得た。
  • 従業員の雇用も継続。
  • ハセガワ氏への金銭的負担もほぼなし。

CASE2: [株式譲渡]大手各社の包囲網の中、生き残る唯一の方策とは?

経営者の希望
  • 大手の進出で危機
  • 創業以来、地元の人々に愛されてきたスーパーZが全国展開の大手数社の進出により危機に直面。最悪の事態だけはどうしても避けたい。
問題・課題
  • 誰にも相談できない
  • 後継者となる子どもがおらず、不安をあおるだけなので社員には相談できない。また、社員にも適任者がいない。
  • 倒産による悪影響
  • スーパーZが倒産すれば、従業員が路頭に迷い、仕入れ先にも迷惑をかけ、小さな取引先は連鎖的に倒産してしまうかもしれない。
株式を100%譲渡
条件: 従業員と取引先の継続
実施策
  • 従業員と取引先を守る
  • ちょうど株価をアップさせたいタイミングであった大手のXスーパーには魅力的な、スーパーZの好立地の店舗とローカルチェーンとしての知名度の高さが大きく評価され、従業員の雇用と取引先の継続を2大条件に、100%株式譲渡。
結果
  • DNAだけは残したい
  • さらなる他の大手にも対抗できるように。
  • 従業員の雇用継続でスーパーZのDNAは残った。
  • 最悪の事態は回避することができた。

CASE3: [株式譲渡]まるでジグソーパズルのよう、強みと弱みがかみ合った2社

経営者の希望
  • 民間への進出
  • 公共工事の仕事に定評があるI社の社長イトウ氏は、民間工事への手を広げたいと考えている。
  • 公共への進出
  • 一方、民間工事が好況なK社の社長コバヤシ氏は、さらなる事業拡大のため公共工事の強化を望んでいる。
問題・課題
  • ノウハウがない
  • I社は民間工事への営業ノウハウがなく、優れた技術力を持て余す状態になっている。
  • 知名度が低い
  • 創業10年と歴史が浅く、知名度もやや低いK社は、公共工事の拡大に手こずっていた。
メリットを補完し合ってI社をK社の100%子会社に。
実施策
  • メリットを補完し合う
  • お互いのメリットを補完し合うべく、I社をK社の100%子会社にすることにした。
結果
  • 理想的なマッチングに
  • I社は民間工事への営業ノウハウを得られ、K社はI社というブランドと工事実績を共有できるようになった。
  • メリットとデメリットを補完し合うだけでなく、互いの強みを活かし合った理想的なマッチングのケースとなった。
  • 100%株式取得により、許認可や実績の引継ぎがされ、業務を共有することが可能。

CASE4: [株式譲渡]業績好調、味や技術も超一流。このブランドを託す相手は?

経営者の希望
  • 後継者選びの悩み
  • 水産加工品製造のA社の社長アオキ氏は、会社の後継者選びに頭を抱えている。
  • 事業の部門強化
  • 同じころ、同業のB社の若き社長ベッショ氏は、事業の部門強化を狙い苦悩していた。
問題・課題
  • 息子は継がない
  • アオキ氏の一人息子は会社を継がないと意思表示した。
  • 現在に不安を抱えている
  • 若い感性と消費者心理を理解しているベッショ氏は、乾珍味だけの現在の総菜部門に不安を感じている。
B社がA社を子会社化。販路拡大、後継者いらず。
実施策
  • 認知度・評価を活かす
  • B社がA社を子会社化することにした。
  • A社のブランドは地元での認知度や評価も高いため、A社の名や社員も現存のままにした。
結果
  • 販路拡大、後継者いらずに
  • A社の主力商品はB社が強化したい部門であり、事業にプラスとなった。
  • B社の持つ全国規模の販売網で、A社ブランドの商品の販路が全国に拡大。
  • A社のブランドは残りつつ、実質の事業経営はB社が行うため、アオキ氏の後継者の心配がなくなった。

CASE5: [事業譲渡]「集中と選択」成功の秘訣は販売会社に製造を事業譲渡

経営者の希望
  • 自社にも製造部門を
  • プラスチック製品販売を行うM社の社長マツモト氏は、自社にも製造部門を設けたいと思っている。
問題・課題
  • 人手も必要に
  • これまで販売のみに従事しており、これからエンジニアの採用となると何かと物入りだ。
製造部門を事業譲渡
実施策
  • 製造部門とともにエンジニアも得る
  • 事業の集中と選択を行うため、プラ製造部門の事業譲渡を希望していたN社とM&A。
  • N社からの「従業員の雇用」という条件で合意。
結果
  • 互いがスムーズに
  • 熟練のエンジニアをそのまま採用できた。
  • 製販一貫ができるようになり、同業他社からの受注が増えた。
  • N社も残った部門に集中して力を注げるようになり、業績好調に。

CASE6: [業務提携]医療機器卸業に迫った危機、団結して大手に立ち向かえ!

経営者の希望
  • 業界再編
  • 医療機器卸のC社では、社長のチバ氏が、大手による業界再編の動きに焦りを感じていた。
問題・課題
  • 地方の企業には厳しい再編の荒波
  • 県内の競合他社に首都圏の大手企業から声がかかるほど、再編の荒波は傍まできている。
  • ワンマン経営が多い地方の企業では、業務提携がうまくいかない。
業務提携で運営コスト削減競争力強化。
実施策
  • 業務提携し総合商社化
  • 再編の荒波を乗り切るべく、ワンマン社長から政権交代し、新体制になったD社とM&A。
  • 取扱う商材が異なることから、総合商社化を図った。
結果
  • 新体制に期待
  • 総合商社化により、経営の効率化・運営コスト削減が実現。
  • C社は提携により競争力が強化された。
  • 新体制やC社との提携により、同業他社からM&Aによる提携が持ちかけられ、D社はさらに業容を拡大している。